公開日:2025.10.22更新日:2025.10.22

イギリスの医療費は本当に無料?制度の仕組みと注意点を解説


「イギリスでは医療費が無料」と聞いたことがある人も多いでしょう。実際、イギリスには「NHS(国民保健サービス)」という公的医療制度があり、国民や長期滞在者は多くの医療サービスを無料で受けることができます。

ただし、すべての医療が無償というわけではありません。処方薬や歯科診療などには自己負担が発生します。また、旅行者や短期滞在者はNHSの対象外となる場合が多く、事前の確認が必要です。

本記事では、イギリスの医療費が「無料」といわれる理由のほか、外国人が知っておきたい NHSの仕組みと医療費の目安について分かりやすく解説します。

イギリスでは医療費が無料?

イギリスは「医療費が無料の国」として知られています。これは、国民保健サービス(NHS:National Health Service)という公的医療制度が整備されており、医療費の多くが税金によって賄われているためです。

イギリス国民や長期滞在者は、診療や入院、救急医療などの基本的な医療サービスを無料で受けられます。

一方で、「すべてが無料」というわけではありません。処方薬・歯科治療・視力検査など、一部の医療行為には自己負担が必要です。また、短期滞在の旅行者や留学生は、この制度の対象外となる場合もあるため、事前の確認が大切です。

NHS(国民保健サービス)の仕組み

NHS(National Health Service) は、イギリス全土で提供される公的医療制度です。

主な財源は国の税金で、これに加えてNational Insurance(国民保険料)が補助的に使われています。国民や居住者は、診療や入院、救急医療などの基本的な医療サービスを原則無料で受けられます。

この制度を利用できるのは、「通常居住者(Ordinary Resident)」として認められた人です。これは、イギリスに合法的に滞在し、生活の拠点を置いていることが条件とされています。国籍ではなく、滞在の目的や期間、居住実態などから総合的に判断されます。

一方、6カ月以上イギリスに滞在する外国人は、ビザ申請時にIHS(移民医療付加料:Immigration Health Surcharge)を支払う必要があります。このIHSを支払うことで、イギリス国民と同様にNHSの基本的な医療サービスを受けることができます。ただし、処方薬・歯科・視力検査などは自己負担が発生します。

IHSの費用は、2025年現在で年間1,035ポンド(約20万円)です。学生や18歳未満の場合は割引が適用され、年間776ポンドとなっています。

無料になる医療、有料になる医療

イギリスのNHS(国民保健サービス)に登録している人であれば、多くの医療行為を無料で受けられます。ただし、すべてが無償というわけではなく、医療内容によっては定額の自己負担が発生します。

以下では、代表的な医療サービスと費用負担の有無を整理します。

区分 費用負担 内容・補足
救急医療(A&E) 無料(条件あり) 救急外来での初期診療は無料で受けられます。緊急時の対応は外国人や旅行者にも提供されますが、入院後の継続治療やフォローアップ診療は有料になる場合があります。
処方薬 有料 NHSの処方薬は、1品につき£9.90(約1,900円)の定額負担です。複数の薬が処方された場合、それぞれに費用がかかります。(nhs.uk
歯科治療 有料 2025年4月の改定後、料金は Band1 £27.40、Band2 £75.30、Band3 £326.70 に引き上げられました。治療内容ごとに適用されるBandが異なります。(NHS Business Services Authority
眼科・視力検査 条件により無料または有料 一般的には自己負担ですが、60歳以上・16歳未満・学生・糖尿病や緑内障の患者など、一定の条件を満たす人は無料の視力検査を受けられます。また、所得条件を満たす場合には、眼鏡やコンタクトレンズの補助(バウチャー制度)もあります。(nhsbsa.nhs.uk

 

このように、NHSの医療制度は「原則無料」+「一部定額負担」+「条件付きの無償枠」という構成になっています。

公的医療として幅広いサービスが提供される一方で、処方薬・歯科・眼科の費用は自己負担が基本となる点を押さえておきましょう。

短期滞在者・旅行者の医療費は?

観光や短期出張などでイギリスを訪れる旅行者は、基本的にNHS(国民保健サービス)の無料対象には含まれません。

「通常居住者(Ordinary Resident)」に該当しない訪問者は有料扱いとなり、医療機関での診療や検査、入院などに対して費用が発生します。請求額は、NHSの基準料金(national tariff)の150%となる場合もあります。

ただし、救急外来(A&E)での応急処置や、性感染症・結核・HIVなどの感染症治療は、例外的に無料で受けられます。

短期滞在者は医療費が高額になりやすいため、旅行保険への加入と、渡航前の健康チェック・予防接種の準備を忘れないようにしましょう。

プライベート医療(自費診療)という選択肢

混雑を避けたい、専門医にすぐ相談したい、またはNHSの対象外となる外国人の場合は、プライベート医療(Private Healthcare)を利用できます。

プライベート医療は原則として自己負担ですが、民間医療保険に加入していれば、費用の一部を補償してもらえるケースもあります。

主なメリットは以下のとおりです。

  • 待ち時間が短く、すぐに診察を受けられる
  • 専門医を直接受診できる(GPの紹介が不要)
  • 日本語対応のクリニックや歯科医院が複数ある
  • 清潔で設備の整った病室を選べる

費用の目安(地域・医療機関により変動)

項目 費用の目安
GP初診料 約£90~£300(約1.7万~5.7万円)
歯科治療(根管・抜歯など) 約£400~£700
入院・手術 内容により1日あたり数十万円~100万円超

 

例えば、ロンドン中心部のプライベートクリニックでは、GP診療が約£150~£300、歯科治療では根管処置が£200~£1,000程度になる例もあります。治療内容や地域によって料金は大きく異なるため、受診前に見積もりを確認しておくことが大切です。

医療費が高額になるケース

NHS(国民保健サービス)の対象外のまま、重い病気や事故で入院や手術を受けると、非常に高額な医療費が請求されることがあります。

イギリス政府の規定では、外国人旅行者などの訪問者に対して、NHS基準料金(national tariff)の150%を請求できると定められています。(gov.uk

例えば、イングランド南西部の病院では、一般病棟の入院費が1日あたり約£800(約15万円)+処置・薬剤費と見積もられています。(Great Western Hospital

治療内容や入院期間によっては、数百万円規模の請求になることも珍しくありません。こうした高額請求は、海外旅行保険やクレジットカード付帯保険の補償上限を超える場合もあります。

そのため、医療費補償が十分な旅行保険を選ぶことが重要です。特に、入院・手術・救急搬送費用をカバーできるかを、出発前に必ず確認しておきましょう。

渡航前に確認しておきたいこと

イギリスでは医療制度が整っていますが、滞在期間やビザの種類によって利用条件が異なります。

6カ月以上滞在する場合は、ビザ申請時にIHS(移民医療付加料)を支払うことで、NHSの基本的な医療サービスを無料で受けられます。ただし、歯科治療や処方薬などは自己負担となります。

一方、観光や短期出張などの場合はNHSの無料対象外となり、診療・入院・手術などは原則全額自己負担です。医療費が高額になるケースもあるため、海外旅行保険への加入と補償内容の確認を忘れないようにしましょう。

また、ロンドンやマンチェスターなど主要都市には日本語対応のクリニックもあるため、事前に調べておくと安心です。

海外滞在は「早めの準備」が重要

イギリスでは医療制度が整備されていますが、無料で受けられる範囲には限りがあります。長期滞在者はIHS(移民医療付加料)の支払いを忘れずに行い、短期旅行者は海外旅行保険への加入を必ず検討しましょう。

また、出発前には健康状態やワクチン接種状況の確認も欠かせません。海外渡航前の予防接種は、早めの相談と計画が重要です。複数回接種が必要なワクチンもあるため、余裕を持って準備しましょう。

ワクチンナビでは、渡航先や目的に応じて最寄りのトラベルクリニックを検索できます。

費用やスケジュールを事前に確認し、安心して海外生活をスタートしましょう。

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記事担当:ワクチンナビ編集部

「ワクチンNavi」 は渡航前に確認しておきたい感染症の情報や、旅行・渡航に役立つ豆知識など様々な情報を発信しております。

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