公開日:2024.03.14更新日:2024.05.02

腸チフスとは?症状・ワクチンについて


今日の日本では、厚生労働省や地域の尽力による環境改善に伴い、腸チフス感染症があまりみられなくなりました。

しかし、未だ国外では猛威をふるっていることが少なくありません。

旅行や出張で海外へ渡航する際は、腸チフス感染症を発症させないよう予防することが大切です。

今回は、腸チフスについてご紹介いたします。

腸チフスとはどのような病気なのか、原因や予防方法についても解説いたします。

腸チフスとは?

腸チフスとは、食中毒で有名なサルモネラ菌に属するチフス菌と呼ばれる細菌により引き起こされる病気のことです

取り込んだ菌の量が僅かであっても、発症してしまう恐れのある危険な菌です。

日本では、昭和初期から終戦後にかけて猛威をふるっており、代表的な感染症の一種とされていました。

しかし、現在では国内の感染例は極めて少なく、多くが国外から菌が持ち込まれてしまったために発症すると言われています。

腸チフスの原因

チフス菌は、菌を持っている人の尿や便に触れたり、菌を含んでいる恐れがある水や食物を体に取り込んだりすることによって感染します。

口から取り込まれた菌は、腸へ移動した後血管へと侵入して血液とともに全身を巡っていき、約2週間の潜伏期間を経て、熱とともに症状を発症します。

主に衛生環境が未だ整っていない発展途上の国々や地域で菌が蔓延しており、年間1,110万人以上の人がこの病気にかかっていると言われています。

なかにはチフス菌を持ちながら無症状である無症状保菌者と呼ばれる人もいますが、その人と触れ合うことで菌をもらい、発症してしまうことがあります。

腸チフスにかかって、胆嚢や尿路に菌を保有している永続保菌者と呼ばれる人もいるため、疑わしい人と接触した際は、手洗いをしっかりと行いましょう。

また土壌や水に菌がいることもあり、飲食によって感染する恐れがあります。

腸チフスの流行が懸念されている地域では、生魚や生果といったナマモノは避けておくほうが安心です。

必ず加熱調理をしてから、食べるようにしましょう。

類似した菌として、パラチフス菌と呼ばれる菌が存在します。

こちらはチフス菌とほぼ同じ菌であるとされ、症状なども腸チフスとあまり相違ありません。

ただパラチフス菌のほうが発症までの潜伏期間が短い、ワクチンが腸チフスのものとは異なる、という違いが挙げられます。

腸チフスの症状

潜伏期間はおよそ7日間から14日間とされ、39℃以上の高熱が出て発症します。

1週間以上にもおよぶ高熱と全身に出る薄い赤色の発疹、熱が出ているのに脈拍が上昇しない徐脈という症状、下痢、脾臓が膨れる脾腫などが主な症状です。

しかし、これらの症状は必ずしも発症するわけではなく、高熱が続くだけといった場合もあります。

症状が重い場合は、難聴や意識障害、腸の出血・穿孔といったことが起こる恐れがあります。

診断や治療をせずにいるとおよそ15%の確率で死亡すると言われており、大変危険な病気と言えるでしょう。

腸チフスの検査には、血液を採取し、細胞を培養して観察する検査が主に用いられます。

血液の他にも尿や便、体液を用いて体内の菌を培養し、確認することがあります。

ただし、抗菌薬などを飲んでしまうと腸チフスかどうかを判断することが困難になります。

帰国してから高熱が続くといった際は、速やかに医療機関を受診し、検査を受けるようにしましょう。

腸チフスと診断された場合の治療法は、主に抗菌薬の投与です。

点滴などによって抗菌薬を体内に取り入れることが一般的ですが、昨今では菌自体が強くなって薬への耐性が上がってきているということもあり、他の薬による治療法が模索されています。

症状の重さや感染したと思われる周辺地域の情報をもとに、医師と専門家が適切な治療法を決定します。

また腸チフスと診断された場合は、速やかに役所へ報告することが厚生労働省により義務付けられています。

無症状であっても血液検査などによって菌が体内に存在すると確認された場合は、無症状保菌者として届出を行わなければいけません。

幼児や学生が腸チフスにかかった場合は、症状が落ち着き周囲への感染がないと医師に判断されるまで、学校や保育園、幼稚園への出席停止が定められています。

なかには医師からの意見書や登校届など、複数の書類が必要になる学校や保育園、幼稚園もあるため、治療の目処がたった頃に学校医や事務に尋ねて準備するようにしましょう。

腸チフスのワクチン接種と予防方法

腸チフスに対して有効なワクチンや発症しないための予防方法について、ご紹介いたします。

・腸チフスワクチンの種類と料金目安

流行が少ないということもあり、現在腸チフスに対抗するワクチンで日本政府が認めているものはありません。

未認可ではあるものの、一部の医療機関で国外からワクチンを取り寄せ、扱っているところも存在します。

取り扱っている医療機関の多くで使用されているワクチンは、「Typhim Vi®」と「Vivotif®(Ty21a)」と呼ばれるものです。

効果はおよそ50%が見込まれ、有効期間は2年となっています。

残念ながら効果があまり高いとは言えず、早期に診断や治療を受けることができれば抗生物質などで対応できるということもあり、国内の流通はさほど多くありません。

当院の場合、1回につき11,000円で接種可能です。

取り扱いワクチンの種類については、当院までお問い合わせください。

・腸チフスワクチン接種スケジュール

Typhim Vi®、Vivotif®(Ty21a)ともに、チフス菌に対して有効である期間は、およそ2年とされています。

そのため、2年後にはワクチンを再度接種することが必要です。

流行している国や地域へ赴いたり、チフス菌を持っていると疑われる人と触れ合ったりしたという場合は、対応している医療機関で接種を受けるとよいでしょう。

・腸チフスワクチン接種の副反応

ワクチンの主な副反応は、注射を施した部分の一時的な痛み・腫れや発熱、頭痛が挙げられます。

重度の副反応が起こることはまれですが、アレルギー症状や血圧の低下、胸の強い痛みが起こるということもあるようです。

また2歳以下の幼児はワクチンを接種しても免疫ができないとされており、無用な副反応を避けるためにも接種は控えるようにしたほうがよいでしょう。

・腸チフスの予防方法

腸チフスの予防方法は、主に手洗いの徹底にあります。

誰が菌を保有しているか分からないため、清潔を保つよう心がけることが大切です。

チフス菌は経口による感染のため、流行が懸念されている国または地域での飲食には注意を払い、ナマモノは避けましょう。

他には、氷を口にすることは控え、水は一度沸騰させたり、ペットボトルやビンに入ったミネラルウォーターを購入したりすることが安全です。

腸チフスの感染リスクのある地域

Q&A

腸チフスに関するよくある質問

腸チフスの原因はなんですか。
チフス菌というサルモネラ菌に属する菌の一種が原因で発症します。 菌を持つ人の尿や便に触れたり、菌が蔓延する土壌で育った野菜や果物、水といった飲食物を口に含んだりすることでかかります。
腸チフスのワクチンはありますか。
あります。 しかし、日本では腸チフスに有効なワクチンは未認可であるため、医療機関が独自で取り寄せたものを接種することになります。
腸チフスにかからないためには、どうすればよいですか。
腸チフスを発症しないためには、手洗いを徹底的に行うことがおすすめです。 また流行している地域でのナマモノの飲食は避け、口にするものには必ず火を通しましょう。

この記事の監修者

著者

記事担当:笹倉 渉

MYメディカルクリニック渋谷の非常勤医。麻酔科標榜医・日本医師会認定産業医の資格を持つ。

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