公開日:2025.05.28更新日:2025.05.28

イギリスと日本の医療制度の違い|渡航前に知っておきたい注意点


海外留学や長期滞在を予定している方にとって、現地の医療制度を事前に理解しておくことは欠かせません。

イギリスの医療制度(NHS)は、日本の国民皆保険制度とは仕組みが大きく異なります。

この記事では、イギリスと日本の医療制度の違いを分かりやすく整理し、医療費負担の仕組みや、留学生・長期滞在者が注意すべきポイントについて解説します。

イギリスの医療制度NHSとは?

イギリスのNHS(National Health Service、国民保健サービス)は、第二次世界大戦後の1948年に設立されました。

理念は、すべての人に「ゆりかごから墓場まで」無料で必要な医療を提供することです。

NHSの運営資金は、主に国民から徴収する税金(一般租税)で賄われています。

加えて、被用者と雇用主が支払う社会保険料(National Insurance Contribution)も一部充てられています。

医療サービスを提供するのはNHSに所属する病院や診療所などの公的機関で、国民および一定条件を満たす滞在者が対象となります。

NHSでは、以下の幅広い医療サービスが基本的に自己負担なしで利用できます。

 

  • 一般診療(GP受診)
  • 専門医による診療
  • 入院治療・手術
  • 救急医療
  • 出産
  • 定期予防接種(小児向けワクチン)

 

上記のように、NHSでは基本的な医療サービスは無料で受けられますが、一部例外もあります。

例えば、処方箋についてはイングランドでは1品目ごとに約9ポンド(日本円でおよそ1700円)の負担が必要です。スコットランドやウェールズでは、処方薬も無料となっています。

また、公的な歯科診療に関しては、治療内容に応じて段階的な自己負担が求められる仕組みになっています。

参考:イギリスの医療制度(厚生労働省)

ただし、妊婦、16歳以下の子ども、65歳以上の高齢者、低所得者は処方箋料が免除されるなど、経済的に配慮されています。

また、重篤な救急患者については、NHS未加入の外国人であっても、救命治療は原則無料で受けられます。ただし、救命後の入院・治療には費用が請求されることがあります。

日本の医療制度「国民皆保険制度」

日本では、1961年から国民皆保険制度が導入され、すべての国民がなんらかの公的医療保険に加入することが義務付けられています。

加入する保険は、以下のように対象者ごとに分かれています。

 

対象者 加入する保険
会社員・公務員 職場の健康保険(被用者保険)
自営業者・学生・無職 市区町村の国民健康保険
75歳以上の高齢者 後期高齢者医療制度

 

また、在留期間が3カ月を超える外国人も原則として公的医療保険への加入が求められます。

保険料は給与天引きや自己納付によって支払われ、不足分は税金(公費)で補われています。

医療費の自己負担と高額療養費制度

日本の医療機関では、患者が医療費の一部を自己負担する仕組みです。

 

年齢・状況 自己負担割合
0歳~6歳(義務教育就学前)※ 2割
7歳~69歳 3割
70~74歳 2割
75歳以上(現役並み所得者以外) 1割
70歳以上(現役並み所得者) 3割

※子どもは自治体の医療費助成により、自己負担額が低く抑えられる

さらに、高額療養費制度により、ひと月の自己負担額が一定額を超えると、それ以上の支払いは不要になります。

例えば、治療費が1000万円かかった場合でも、実際の自己負担額は数万円から多くても数十万円程度に抑えられます。

参考:我が国の国民皆保険制度(厚生労働省)

 

医療機関の仕組み「自由開業制とフリーアクセス」

日本の医療体制には、次のような特徴があります。

 

項目 内容 注意点
自由開業制 医師は自由に病院・クリニックを開設できる。

地域に根差した医療提供が可能。

公的医療保険制度に基づき、全国共通の診療報酬基準に従って運営される。
フリーアクセス 保険証があれば、全国どこの医療機関でも自由に受診できる。

専門医療機関にも直接アクセス可能。

大病院を紹介状なしで受診する場合、

初診時選定療養費(数千円)が必要な場合がある。

 

このように、日本では地域や医師を自由に選びながら、身近な診療所から高度専門医療機関まで幅広くアクセスできる体制が整っています。

イギリスと日本の医療費負担の違い

イギリスと日本では、医療費の負担方法に大きな違いがあります。

イギリスのNHS(国民保健サービス)では、診察や検査、入院、手術など基本的な医療サービスを原則無料で受けられます。

これに対し、日本では医療機関を受診すると原則3割の自己負担が必要です。

ただし、日本には高額療養費制度があり、自己負担が一定額を超えるとそれ以上の支払いは免除されます。

両国の医療制度の違いを、次の表にまとめました。

 

項目 イギリス(NHS) 日本
基本負担 原則無料(診察・検査・入院・手術など) 原則3割自己負担(例:1万円の医療費なら3,000円支払い)
処方薬 定額制(約9ポンド、約1,700円/1品目) 医療費に含まれ自己負担額に反映
特例 子ども・高齢者・低所得者などは処方箋料が免除 高額療養費制度により自己負担に上限あり

こどもは自治体の医療費助成により、自己負担額が低く抑えられる

歯科診療 NHS内治療は一部自己負担あり 原則3割負担、保険外診療は全額自己負担
安心感 税金を納めていれば、必要なとき無料で受診できる 高額医療も限度額適用で支払える範囲内に抑えられる
そのほかの特徴 緊急医療も原則無料、特別な手続き不要 医療費は公定価格で設定、保険未加入でも比較的安価

 

受診の流れと医療アクセスの違い

イギリスでは、医療機関を受診する際、まず「GP(General Practitioner)」と呼ばれる地域の総合診療医に登録する必要があります。

GPは日本でいう「かかりつけ医」に相当し、内科や小児科などの一般診療を幅広く担当します。

体調に異変を感じたら、症状に関わらずまずGPを受診し、必要に応じて専門医への紹介状(Referral)を発行してもらう仕組みです。

紹介状なしでは、原則としてNHSの専門医療を受けることはできません。ただし、命に関わる緊急時は例外で、直接救急病院に搬送され治療を受けられます。

一方、日本では患者自身が自由に医療機関を選ぶことができます。

例えば、かぜなら内科、皮膚のトラブルなら皮膚科と、症状に合わせて専門医を直接受診できるため、迅速に適切な医療にアクセスできます。

紹介状がなくても大病院を受診できますが、その場合、初診時選定療養費という追加費用がかかる場合もあります。

イギリスのGP制度は医療資源を効率的に活用するためのものですが、診療所の混雑や、専門医にたどり着くまでに時間がかかることが課題とされています。

一方、日本の自由受診制度はアクセスのしやすさが大きなメリットですが、軽症患者が大病院に集中しがちな点が課題となっています。

このため、大病院では紹介状を推奨するなど、役割分担を進める取り組みが行われています。

薬局での薬の入手方法

イギリスでは、医師(GPや専門医)の処方箋を薬局に持参し、薬を受け取ります。

処方薬には定額料金(約9ポンド)が設定され、種類や量に関わらず支払い額は一定です。(出典:イギリスの医療制度

軽症の場合、医師から「まず市販薬を試すように」と助言されることも多く、薬剤師に相談して適切な薬を選ぶセルフメディケーション文化が根付いています。

一方、日本でも処方箋を薬局に持参する流れは同じですが、軽症でも病院を受診する傾向が強く、薬局では主に処方薬が扱われます。

市販薬はドラッグストアなどで購入でき、必要に応じて薬剤師に相談可能です。

イギリスは「まず薬局」、日本は「まず病院」という文化の違いが見られます。

留学生・長期滞在者が注意すべきポイント

イギリスに6カ月以上滞在する場合は、ビザ申請時にNHS利用料の支払いが必要です。

この支払いを済ませると、NHSの医療サービスを原則無料で利用できるようになります。

一方、6カ月未満の短期滞在ではNHSの利用対象外となるため、医療費は全額自己負担となります。

私立の医療機関を利用すると診察や治療費が非常に高額になるため、短期滞在者は必ず海外旅行保険に加入しておきましょう。

また、長期滞在者であっても、NHSではカバーされないサービス(日本語サポートなど)を補うため、民間の海外保険を併用することをおすすめします。

参考:世界の医療事情(外務省)

渡航前に確認したい予防接種

海外渡航前には、必要な予防接種を必ず確認しておきましょう。

特に、麻しん・風しん(MRワクチン)、おたふくかぜ、水痘、B型肝炎、髄膜炎菌感染症、季節性インフルエンザ、新型コロナウイルスについては、接種歴を事前にチェックしておくことが重要です。

小児の場合は、日本国内で定められた定期予防接種をすべて完了してから渡航するのが基本です。

接種が済んでいない場合は、渡航後に現地で不足分を補う必要があります。

イギリスでは、NHS(国民保健サービス)利用料を支払うと、小児の定期予防接種を無料で受けることができます。

安心して海外生活をスタートさせるためにも、医療保険の加入と併せて、予防接種の準備を早めに進めましょう。

まずは「ワクチンナビ」で最寄りのトラベルクリニックを検索し、渡航スケジュールに合わせた接種計画を立てておくと安心です。

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記事担当:ワクチンナビ編集部

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